『耳をすませば』の”おじいさんの鍋焼きうどん”
“よくがんばりましたね あなたはステキです。慌てることはない 時間をかけてしっかり磨いて下さい”
悩み、もがき苦しんで初めて物語を書き上げた雫に司郎が作ってあげた鍋焼きうどん。
不安や緊張とともに寒さで凍えた雫が、暖かく燃える暖炉の炎がゆらめく前で熱々の鍋焼きうどんを食べる場面…。本当に鍋焼きうどんを食べる前と後の雫の表情や雰囲気はとても対比的で、雫が抱える不安や緊張を、鍋焼きうどん(とおじいさん)の温かさが柔らかく解きほぐしていったかのような印象的な場面でした。
雫と司郎の背後でぬくぬくとご飯を食べているムーンの姿が描かれているのも、この空間の”あたたかさ”をより感じさせます。
そして、同時にこの温かそう空間が”鍋焼きうどん”の魅力を最大限まで引き上げていて、初めてこの作品を見た際には、この素朴な食べ物がなんとも美味しそうで仕方なく感じたことを覚えています。当時、あまり鍋焼きうどんは好きではなかったのですが、どうしても食べてみたくなりました。

さて、では『耳をすませば』の”おじいさんの鍋焼きうどん”はどんな料理なのか見ていきましょう。
実はこの”おじいさんの鍋焼きうどん”は鍋焼きうどんとは言ってもいわゆる定番の具材が入っているわけではありません。鍋焼きうどんといえば椎茸の甘煮や海老の天ぷらなどが定番ですが、この”おじいさんの鍋焼きうどん”は特別贅沢な具材も、手の込んだ具材も入らない素朴なものです。
この素朴さがまたいいのですよね。雫の可能性と成長を後押ししてあげるこの状況で、鍋焼きうどんの中に立派すぎる大海老の天ぷらなんて入っていようものなら…。今のままのありのままの雫を肯定する上で、飾らない素朴な、それでいて手の込んだ、そして何より暖かさのあるこの鍋焼きうどんはとてもしっくりきます。
さて、話を戻して具材の話です。
そもそも司朗は雫が実際に「地球屋」を訪ねてくるまで、彼女がこの日 完成した小説の原稿を持って訪れることを知りません。と言うことは、この”鍋焼きうどん”は冷蔵庫の中にあったあり合わせの食材を使って作られたのだと言うことなのでしょう。
作中の描写から確認できる食材は4種類です。半月状の白いものが2つ、星型のオレンジ色のものが2つ、棒状の緑色の塊が2塊、丸い黄色のものが1つ。
一般的な鍋焼きうどんの定番具材や日常的に冷蔵庫にありそうな食材を考え合わせてみると、半月状の白いものは かまぼこ、星型のオレンジのものは 人参、棒状の緑色の塊は青菜、そして丸い黄色のものが卵、と言ったところだろうと推測できますね。
あり合わせの食材を使った何気ない料理ながら、人参を星型に切るあたりに心のこもった丁寧さと遊び心が見えます。ちなみに、宮崎駿監督はほうれん草がトッピングされたラーメンがお好きだそうで、青菜としてはほうれん草を使うことにします。
“ジブリ飯”おじいさんの鍋焼きうどんの作り方
では、おじいさんの鍋焼きうどんを作っていきましょう。
動画もありますので、よろしければ。
鍋焼きうどんの魅力の一つは煮込むことで、ふっくらと柔らかくお出汁を含んで膨らんだ麺にあります。なので、個人的な理想としてはある程度の太さがあり、かつ煮込んでもコシの残るしっかりとした麺です。
こちらではうどんは手に入りにくいので、乾麺を持ってきていますが、乾麺で太麺というのはあまり見かけ何のですよね。そういうわけで、今回うどんは手打ちしました。

ノルウェーで購入できる一般的な小麦粉は日本の規定に従えば中力粉に分類されるくらいのタンパク質含有量ですので、うどんうちにはちょうど良い加減です。
お出汁は低温でじっくりととった昆布出汁に、通常の一番出汁をとる時よりも気持ち多めの鰹節を入れて、しっかりとした味わいのお出汁にしました。

手打ちうどんは打ち粉がついているので、粉を落とす意味でまずお湯で茹でます。直接鍋焼きうどんの出汁に入れて煮込んでしまうと、粉が溶け出て出汁が濁ってしまいます。また、手打ちの生麺はしっかりとかき混ぜながら茹でないと、麺同士がくっついてしまうので、その意味でも一度茹で揚げてから使わないと美味しい鍋焼きうどんはできません。

具材はすでに書いたように、ほうれん草、卵、にんじん、そしてかまぼこを使います。
今回かまぼこは日本から持ってきたものを使っています。ほうれん草はさっと茹でて、水にとった上でしっかりと絞っておきます。

にんじんは飾り切りにしますが、飾り切りと言ってもそんなに難しいものではありません。星型に切り取りたい場合は、まず皮を剥いた人参の端を薄く切り落として五角形か六角形を作り、そのあとは各辺に対して両角から切り込みを入れて形を整えるだけです。

塩と醤油で味付けした出汁に先ほど茹で上げたうどんを加え、まずはうどんがふっくらと出汁を含むまでうどんだけを煮込みます。

麺が十分に出汁を吸ったら、出汁の量を調整します。というのも、煮込んでいる間に水気が飛んでいきますので、足りないようなら出汁を足す必要があります。
次にいよいよ具材を入れていきます。
個人的には卵は黄身が崩れない程度の半熟が好きなので、早めの段階で入れておきます。この際、かまぼこは一緒に入れてしまいます。かまぼこからはお出汁も出ますし。
注意すべきこととしては、ここからは火力が強すぎるとお出汁が沸騰して水面が乱れるため、卵が美しく仕上がらなくなるという点です。特に蓋なしでは水面が静かだとしても、蓋をすると激しく沸騰することもあるので注意が必要です。
なので、火力はお出汁が軽くクツクツする程度の弱火に抑えて、卵にはお出汁から伝わる熱と、蓋を閉めた際に回る蒸気とで火を入れる感覚で調理しまていきます。

卵の火加減は繊細なので、適宜様子を見ながら時間を調整していきます。
ある程度、白身が固まってきた頃合いで、人参を加えます。人参は薄切りにしているので、湯立つのにそれほど時間はかからないはずです。

ほうれん草は煮込むと色味が悪くなるので、出来上がりの直前に入れます。ほうれん草に関しては煮込むのではなく、温めるくらいの感覚でいると良いかと思います。

“ジブリ飯”おじいさんの鍋焼きうどんを味わう
というわけで完成です。
こちらが我が家の再現”ジブリ飯”『耳をすませば』のおじいさんの鍋焼きうどんです。

出来栄えはというと…
まずは何をおいても体が温まります。お出汁が五臓六腑に染み渡ります。シンプルな具材の”鍋焼きうどん”というのもあっさりとしていてとても美味しいものです。ほうれん草も出汁の相性がとても良いです。
さすがはアニメーターの方々のデザインしただけあり、彩りのバランスも良いですね。作中の描写通りに盛り付けただけでなかなかに見栄えのする仕上がりとなりました。
卵も絶妙に好みの具合に仕上がっています。このくらいだと十分しっとりして半熟感がありますし、逆に溶け出して出汁を濁らせることもありません。

個人的には鍋焼きうどんというと 大きめの海老天や甘辛い椎茸の煮物などが入っているもの、という認識がありました。じっくりと煮込まれて出汁が染みて柔らかくふわふわと膨らんだ天ぷらの衣、そしてその衣から油が染み出した出汁もコクが増して美味しくなる、そんなご馳走みたいなおうどん。
今回の鍋焼きうどんは油物は全く使わない、シンプルで素朴な具材のものです。あっさりした味わいですが、お出汁のそのままの美味しさがうどんに染みてお箸が止まらない。

結局お汁までほぼ全て飲み干してしましました。
こういう鍋焼きうどんも良いですね。『耳をすませば』のおじいさんの鍋焼きうどん、美味しゅうございました。
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