“イチャニウのオハウ(桜鱒の汁物)”。春のアイヌ料理。
アイヌをテーマにした漫画『ゴールデンカムイ』に登場する“イチャニウのオハウ”。
ヒロインのアシリィパ曰く”春に食べる汁物の中で一番美味しい”というアイヌ料理です。

元々、食べたことのない料理に対する憧れは強い方で、『ゴールデンカムイ』に登場する数々のアイヌ料理は目に新しくどれもこれも食べてみたいという好奇心をくすぐる料理でした。
ただ、食材が特殊すぎる。
ヒグマにラッコにカワウソに….ジビエにしても、ハードルの高すぎる普通の人間には手に入れるのも不可能な食材ばかりです。そんな中で手に入る食材で作れそうな料理が二つ、三つあります。
今回作ったのは”鱒”を使ったイチャニウのオハウもその一つです。

ちなみに、オハウというのはアイヌの汁物のことで、『ゴールデンカムイ』では他にも様々なオハウが登場します(上記の通り再現できないような食材のものばかりですが…)。またオハウ以外にも多くののアイヌの料理や食材が出てくるのもこの作品の魅力の一つですね。
ちなみに今回の料理ではイチャニウ、プクサ、コロコニ、マカヨなどのアイヌ食材が出てきます。イチャニウは桜鱒、プクサは行者ニンニク、コロコニはフキ、マカヨはフキノトウを意味するのだそう。
その他にもアイヌに関する様々な豆知識が詰め込まれていて、とても興味深い作品です。作中では食材採集の間にアシリィパが口の周りどころか、顔中を真っ黒にする愛嬌のある姿を披露していました。曰く、フキの若葉はアイヌの子供が”遊びながらおかし”にするのだそうです。
アイヌに関する知識はネット上でもなかなか手に入らないので、正直どこまでが本当のことなのかはわかりませんが、しっかりと調べられている作品だと感じます。
それでは”ほろ苦い春の味”がするという『ゴールデンカムイ』の”イチャニウのオハウ”を作っていきましょう。
『ゴールデンカムイ』”イチャニウのオハウ”の作り方
今回の主役である鱒は脂のたっぷりと乗った3kg級のものを使いました。
オハウの出汁という点では、鱒のアラも重要な役割を果たすので、今回は丸のマスを捌いて身だけでなく、頭からアラから尾っぽまで全てを使っていきます。

鱒は3枚におろし、身は食べやすい大きさに切り分けます。身を取り終わったあとは、頭と尾を落とし、アラは鍋に入りやすい大きさに切り分けてから、少しの間水につけて汚れ落としと血抜きを行います。

鱒がうまく溶けてなくて、半解凍状態で捌いてしまったこともあり、ちょっと包丁を入れる場所を間違えました….。
鱒以外で使う食材はフキと行者ニンニク。どちらも春らしい旬の食材です。作中ではこれらに加えて”フキノトウの茎”も使うのですが、さすがに手に入らないので今回は見送ります。
代わりと言ってはなんですが、フキはフキと山蕗の2種類を使いました。山蕗の方が苦味も香りも強いので、違いが楽しめると良いなと思っています。

フキは塩ズリをしてから茹でて、20分程冷水につけておきます。必要ならこの灰汁抜き2〜3回行って食べやすくした処理します。
その後、皮を剥いて鍋の具材として食べやすい長さに切り分けます。

行者ニンニクはさっと水洗いするだけで大丈夫です。万一鮮度が悪くなってきていれば、表面の層からグチュグチュになってくるので、その部分を剥いでしまえば内側の部分は問題なく使えます。傷んでいる層は水を流しながら手で擦れば簡単に剥がれます。

具材の準備ができたら、いよいよ鍋の準備を始めます。
綺麗にしたアラを鉄鍋に入れて、ヒタヒタになるまで水を注いで火にかけます。これだけでも十分なのですが、出汁用の乾燥昆布を一枚入れてみるとより美味しくしがります(アイヌ料理としては邪道かもしれませんが…)。

あまり強く煮立たせると鱒の身が細かくほぐれて汁を濁らせるので、表面がくつくつと湯立つ程度の火加減でじっくりと出汁をとっていきます。この際、鱒からはアクが出てくるので丁寧に取り去ります。
ある程度時間がたって、出汁の味がしっかりと出てきたら、まずは鱒の身から、続いてフキ、最後に行者ニンニクという順番で具材を入れていきます。
鱒の身は軽く塩をして、揉み込んでから鍋に入れると良いかと思います。

フキは多少煮過ぎてもさほど問題ありませんが、行者ニンニクは比較的早く煮上がるので、好みの加減を逃さないように気をつける必要があります。
具材がある程度、茹ってきたらお汁の味を見ます。味が足りないようなら塩で調整すれば出来上がりです。

『ゴールデンカムイ』”イチャニウのオハウ”を味わう
では、春の訪れを祝うアイヌ料理”イチャニウのオハウ”をいただきましょう。
お汁がとても透き通っています。うまく調理できたようです。そして注目して欲しいのが、色。全体に赤みが勝っているのがわかるでしょうか。

もちろん、ラー油や唐辛子なんて入れていません。この赤い油分は全て鱒から出たものです。どれだけすごい脂のノリだったのかということですね。そして、この脂がしつこくなくてまた美味しいのです。
それでは、器に取り分けていただきます。

まず、鱒ですが先述の脂のりはもちろんのこと、身がふんわりしていて柔らかい。加えて、背身と腹身で違った食感と味わいが楽しめるのも素晴らしいです。
さらにフキが鍋全体に名状し難いほどに絶妙な香りと、ちょっとした苦味を加えて、文字通り箸が止まらない美味しさです。
そして行者ニンニクですが、茹で具合によって味わいが変わります。さっとだけ茹でて辛味が残ったまま食べるのも合いますし、多少くたっとなるまでしっかり茹でて食べれば元の辛味が嘘のように甘味が口に広がります。

全体の味付けとして、塩だけでは物足りないのではないかと思われたかもしれませんが、全くそんな心配は必要ないくらい複雑で深い味わいが出ています。むしろ塩だけだからこそ、素材の旨みが十全に引き出されているのかもしれません。
元々、鮭や鱒が好きな上、山菜(特に行者ニンニク)が好きだというものあるかもしれませんが、驚くほどの美味さに、気づけば3kgあった鱒も8割がた平げ、ふきや行者ニンニクも取り分けておいた分以外ほぼ食べ切ってしまいました。普段は少食なのですが…。
“イチャニウのオハウ”、美味しゅうございました。
ちなみに、残りのお汁と鱒の身、取り置いておいた少量のフキと行者ニンニクで作った鱒の炊き込みご飯についてはまた別の記事で…。
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